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5時間半前、夜中にupされた記者コラム。
コレ、実際に紙面に載るのかなぁ。載ればいーなぁ。

毎日新聞 
2009年7月23日 0時05分

記者の目:マイケル・ジャクソン = 中川紗矢子

マイケル・ジャクソン死亡のニュースが世界中を駆けめぐった日、私は自宅にある彼のコンサートDVDを繰り返し見ながら、翌朝まで泣き続けた。
亡くなったことはもちろん、悲しい。
でもそれ以上に、誤解され、攻撃され続けたまま亡くなった彼の悲しみを思うと、悲しくて悔しくて、涙が止まらなかった。

死亡後、マイケルに関するニュースや世論はかなり好意的なものに転じた。
しかし、彼の音楽やダンス・人間性にきちんと向き合ったとは思えない報道の多さに憤りを感じる。 8日の本欄 「情報社会とスター契約」(東京学芸部・川崎浩記者)など毎日新聞の一部記事もしかりだ。
繊細で傷つきやすかった彼が受け続けた誤解を、少しでも晴らしたい。

 「彼は白人になりたかった」
という分析がある。
しかし、そういう発言をする人は、彼のインタビューや曲・歌詞など調べずに、思い込みで発言しているのではないか。

黒人音楽に精通する音楽評論家の吉岡正晴さんは、この説について
 「あり得ない」
と話す。
マイケルは、公民権運動・ブラックパワーが最も盛り上がっていた60~70年代に子供時代や思春期を過ごした。 吉岡さんは
 「そうした同胞を見ていて、自分が黒人であることを否定することは、幼心にあり得ないと思う」
と説明する。
また音楽的に見ても、91年発表のアルバム 『DANGEROUS』 以降について
 「より黒い方・黒い方(黒人らしい音楽)に行っている。そちらの方が一般の人には取っつきにくいのに。もし白人になりたいのなら、フランク・シナトラのような歌を歌えばいいのだし、自分が黒人であることを意識し、プライドを持っていた」
と分析する。

子供時代から直接インタビューしていた音楽評論家の湯川れい子さんは、白人願望説の根拠とされる外見的な変化について
 「精神的なトラウマが非常にあるから自己否定に行ってしまった」
と、人種とは別の問題だと指摘する。
 「彼は黒人であることを捨てようとしたことは一度もないし、彼ほど黒人音楽にこだわった人はいない」
と話す。
その根拠の一つに、マイケルが終生尊敬してやまなかった黒人ミュージシャンたちの存在を挙げる。 公民権運動の盛り上がりの中でブラックパワーの先頭にいたジェームス・ブラウンは、その代表格だ。

ゴシップを作り上げて書き立てるメディアに不信感を強くしたマイケルは、82年以降、取材に答えることがほとんどなくなったが、そんな中でも93年、米国のカリスマ司会者の黒人女性オプラ・ウィンフリーのロングインタビューに答えた肉声がある。
その中でマイケルは
 「人々は勝手にストーリーを作っている。僕が自分でいたくないとする見方は、すごく傷つく」
と涙をためて話し、
 「黒人であること・自分の人種を誇りに思っている」
と明言している。

少年への性虐待疑惑については、『マイケル・ジャクソン裁判 あなたは彼を裁けますか?』(ブルース・インターアクションズ)をぜひ読んでほしい。
彼が無実であり、裁判以前に別の少年に多額の和解金を支払ったケースを含め、人を信じやすく無防備なマイケルが、巨万の富のために標的にされ、でっち上げに陥れられた様子が克明に記されている。
ちなみにこの著者は、元は反マイケルの偏向報道をしていたと認め、その上で真実を伝える選択をし、膨大な裁判記録や証拠を多用して長大なこの本を書いた。

マイケルは確かに変わっているかもしれない。
ダーティーで過酷なショービジネスの世界にいながら、純真で無邪気で思いやりに満ちていた。 他人のために惜しみなくお金を使い、特に困っている人・子供たちのために多額の寄付やプレゼントを続けた。
マイケルをあまり知らない人たちにはダンスミュージックの印象が強いだろうが、差別や平和・共生をテーマに強いメッセージ性のある曲をたくさん作った。
透明感と伸びのある美しい声でバラードも歌っていた。
どの曲も、時がたっても全く色あせていない。

そんな彼が生けにえのように攻撃された原因は、残念ながらメディアにある。
吉岡さんは
 「メディアが白人だったというのは絶対あると思う。白人メディアの黒人アーティストに対する扱いはかなり差別的だ。矛盾した言い方だが、もしマイケルが白人だったら、こんな扱いはしなかった」
と話し、
 「(肌が白くなった原因の病気)尋常性白斑についてなど、われわれの無知がマイケルの周りにちりばめられて、一斉に誤ったことを書くメディアが免疫不全に陥っていった」
と指摘する。

初の黒人大統領の誕生と、人種差別に苦しめられたマイケルの死亡が同じ年だったのは感慨深い。
今年は人権が勝利する時代の幕開けになってほしいと、マイケルファンの一員としても、心から願う。

(北海道報道部)
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