Q: | で ついにこの3月(※1990年)、日本へいらっしゃるわけですが、日本のファンって多分 世界中で最も忠実なんじゃないかと私は思うんですよ。 未だに日本ではどこへ行っても毎日有線放送でビートルズが流れてますし…。 |
PM: | うんうん。そうだね、ホントに日本人って忠実な人々だと思うよ。 |
Q: | ところが中には、「その我々に対して少々冷たいんじゃないか?」 と文句を言う人もいる訳ですよ。 |
PM: | へええ。 そう言えば、ビートルズが初めて日本へ行った時も 『武道舘なんかで演るべきじゃない』 とか文句を言う奴がいたよなあ。 日本人って文句を言うのが好きなんだろうか? |
Q: | ちょちょっと待って下さい。 まだ全部言い終わってないんですよ。 |
PM: | (笑) ああそう。 |
Q: | 例えば、“フローズン・ジャップ” などという曲を書いてみたりですね。 |
PM: | うんうんでもそれはさ (と また割り込もうとする) |
Q: | それに、あるビデオ・クリップでは日本人をからかってみたり。 |
PM: | あれは僕じゃないよ。あのビデオを撮った監督のアイデアだったんだ。 ロジャー・ラングって奴なんだけどさ、『俺、面白いアイデアがあるんだ』って言うから 『へええどんな?』って聞いたら 『ある熱心な収集家が君に関するものを全て集めたがってて あげくの果ては君の愛用のベースを盗もうとする話だ』って答えるんだ。 だから 『よし、じゃそれで行こう』って事になって当日撮影所に現われたら、なんと目の前に日本人の俳優がいるんだよ。 |
Q: | (笑) |
PM: | そこで僕に何が出来る? もう来ちゃってるんだから追い返す訳にもいかないしさ。 だからあの場合は、別に日本人じゃなくたって どこの国民を使っても、結局は一種皮肉っぽいニュアンスがつきまとう仕組みになってたんだよね。 アメリカ人やロシア人を使ったとしても、相手は 『侮辱してる!』って思ったかもしれない。 だから、最後のシーンに日本人の警官を登場させてくれって頼んだんだ。そうすれば日本人はみな犯罪者だというニュアンスを打ち消せるからね。あの部分は僕の特別なリクエストだったんだよ。 でもさ、監督の奴だって別に悪気はなかったんだ。ただ、世界で一番熱心な収集家は日本人だからっていう理由であのシーンに日本人を使っただけなんだよね。 でも僕はあの時、『ひょっとしたらこれを侮辱だと受け取る人間がいるかもしれないから気をつけなきゃいけないよ。だから日本人の警官を最後のシーンに絶対登場させるべきだ!』 って言い張ったんだ、本当に。 僕の言葉を信用してくれよ。 |
Q: | はいはい解りました。 |
PM: | それに、“フローズン・ジャップ” っていうタイトルだけどさ。 まぁ時として “ジャップ”って言葉そのものが侮辱的な響きを持ち得るのは認める。 でも例えば、“二ガー” なんかよりはずっと悪意のない言い方なんだよね。 |
Q: | ええっ? そうですか。 |
PM: | うん、悪意はない。 でも日本人は、この言葉に対して神経質になりやすいのかもしれないな。 でも本当に、英国人が気楽にこの呼び方をする場合って、他意のない一種の親愛をこめた別称とでも言うのかな? そういうニュアンスなんだよね。 日本人にとっては無神経な呼び方に聞こえるのかもしれないけど。 僕は、誰に対してもそういう二ックネームっぽい呼び方をしてしまう性分で、多分こういう馴れ馴れしい態度は改めるべきなのかもね。 |
Q: | (笑) |
PM: | でも信じてくれよ。本当に悪気はないんだってば。僕にとってはすごく自然な暖かみのある愛情表現なんだ。 そもそも、この曲に日本的な響きのあるタイトルをつける気になったのはさ、この曲そのものが一種日本的・東洋的な響きを持ってたからなんだ。 何だか寒い景色、雪が降ってる光景かなんかを連想してね、富士山に雪が降ってる感じとでも言うのかな? だから、その寒い景色と日本的な響きってのを組み合わせて、“フローズン・ジャップ”って題を付けたってわけ。 侮辱的な二ュアンスなんてこれっぽっちも頭に浮かばなかったんだよ。 |
Q: | なるほど、そうだったんですか。 |
PM: | だからそのまま何気なく日本へ送ったらさ、『ちょちょっと待って下さい。これはマズイですよ』 って返事が来て。 やっとその時 『ああなるほど、そりゃそうかもなあ』 って気づいたんだ。それまでは、まさかそんな風に受け取られるなんて夢にも思ってなかったもんね。 じゃ しょうがないから他の呼び方にしようかな? “ジャップ”ってのがダメなら “フローズン・ジャパニーズ”にでもするしかないのかあ… とかさ。 |
Q: | (笑) |
PM: | でもそんな題にしたら日本人はもっと怒るだろうと思い直して、じゃここは思いきって “フローズン・マレイシアン”にするか? とか、いや “フローズン・オーストラリアン”ってのはどうだろう? とか、1人で悪ノリしてたんだけどさ。 でもホント、そんなわけで悪意は全然なかったんだよ。言わば英国人特有のタチの悪い冗談でさ。 第一、こんな子供っぽい冗談が本物の侮辱になり得るはずが無いじゃないか。 この僕に 本当に相手を侮辱しようという気があったなら、もっともっとヒドイ巧妙な言い方でもってトドメを刺す方法があるよ。僕は、いざとなったら他人が想像も出来ないような辛辣な言葉だって吐けるんだ。 |
Q: | 解りました解りました。もうそれ以上言わないで下さい。 |
Q: | じゃ本題に戻りますが、これは数年前、大麻事件で逮捕された事を未だに根に持ってやった事ではなかったわけですね。 |
PM: | さっきも言ったように、僕が本気で異議を申し立てようと思ったら こんな幼稚な方法は選ばないって。 こっちの新聞に投書したり 日本の新聞に手記を書いたり、もっともっと効果的な方法はあるんだから。 でも、僕が日本で逮捕された時の状況ってのは、すごく公平なあり方だったからね。 僕はその国の地においてその国の法を犯したんだからさ。当然だよ。 明らかに僕がパカな事をしてしまった訳なんだから、あの事について日本人に対する反感はカケラもない。 実は、あの当時帰国した際、多くの英国人に 『ずい分ヒドイ扱いを受けたんだろう?』 って聞かれたんだよね。 特に少し年を食った人々の中には、未だに戦時中の反感が残ってる人も多い訳だからさ。 でも実のところ、入獄中の僕は勿体ないくらい紳士的な扱いを受けたわけだから 『いやそんな事はなかった。すこく親切にしてくれたぜ』 って答えたんだ。だって本当だものね。 今だから言うけど、中にいる間に看守たちとも結構親しい友達になっちゃってさ、出獄する際は涙まじりのお別れだよ。 あぁそうそう、看守たちの中に1人、囚人たちが夜寝る前のお話を毎晩してくれる人までいてさ。 |
Q: | ええっ? 本当ですか。 |
PM: | うん。もちろん日本語でだから僕には話の筋は解んなかったけどね。 しかしいろんな意味で、すごく興味深い9日間だった。いろんな種類の人間がいたけど、皆いい奴ばかりだったな… (一瞬思い出に耽る表情になるが、ふと我に返って) というわけでさ、日本での悪い思い出なんか1つも無いんだよ。 |
Q: | 最近のあなたは、レコード毎に共同プロデューサーを変えてるようですね。 |
PM: | 基本的に僕は、未だに "完璧なプロデューサー" ってのを捜し求め、さまよい続けてるんだと思う。 だから今まで出来るだけ多くの人々を試してきたんだけど、いくら他人が誰かを推薦したところで実際に一緒に仕事してみなきゃ自分との化学反応がどう出るか?ってのは判らないからね。 それに、元々いろんな種類の人間と仕事するのは好きな方だから。 |
Q: | かつてビートルズファンだった世代があなたのプロデュースをしている印象すら受けます。 果たしてこの世代の中からあなたが求める特殊な人材を捜し出せるでしょうか? |
PM: | 僕は、自分を含め 人間の年齢には全く興味ないんだ。 相手が何歳であろうとも、そんな事は全然気にならないよ。 若くてエネルギーがあるからって、何もそういう連中だけに特別な才能があるとは限らないんだからさ。 我々老人の中にだって、若さや精力は劣るけれども知性じゃ負けないって人間も少かからず居るからね。 良いプロデューサーを見つけたら、たとえその人間が50のジジイであろうと僕は平気だよ。 でもそういう御老体のベテランを見つけた場合、耳がよく聞こえなくなっちゃってるなんて事もあるから(笑) まあ、その辺が欠点と言えば欠点だなぁ。 <中略>‥‥冗談だよ冗談。アホな事言ってるだけだから(笑)。 でも本当にマジで、僕は自分より若い娘らを利用してその精気を吸い取ってやろうなんて 浅ましい下心は全然ないね。 反対に、経験豊かなベテランを求めるって気もない。 ただ、"その人間の才能" だけに興味があるんだ。 |
Q: | 今の社会を見ると、音楽界だけでなく芸術や政治・経済界までもが かつてビートルズファンだった “60年代の申し子達” によって動かされている情況になって来てますよね。 それを見てどんな気がします? |
PM: | すごく自然で望ましい状態だと思うよ。 僕らが若い頃っていうか、60年代頃にはやっぱりあれこれ新しくて面白いアイデアを模索したりしたものなんだ。 <中略> よく皆と議論し合ってたのが、 『将来、必ず俺たちが実際に世の中を動かす原動力になる日が来る訳だけど、一体どんな変化をもたらすんだろう? 果たしてこの世の中のシステムを変える事なんて出来るんだろうか?』 ってテーマだった。 で、必ず出来るんだ!という答えが今、現実の世界で事実として続々と実現してるじゃないか。 例えばあのゴルバチョフの最新政策だって、明らかにビートルズ世代のメンタリティーだもんね。 |
Q: | ふ-む…そうなんでしょうかねぇ。 そこまでは考えが及びませんでしたが。 |
PM: | うん、でもよく考えてみてごらん。すこく大切な事なんだからさ。 それにこの間、東西間のベルリンの壁が廃止になった時、東側から移動してくる人々の服装をテレビで見ただろう? デニムなんだよデニム。殆んどの人間が揃いも揃ってジーンズ人種なんだ。僕らの世代なんだよ。(デニムは)自由を愛する人間のシンポルだからね。 日本人だって もうそろそろ、そうなっても良い時期なんじゃない? 若い人間だけじゃなく中高年の人間達までもが堂々とジーンズ姿で社会に通用できる位になれたらしめたものなんだけど。 日本はまだそこまで行ってないだろう? つくづく日本ってそういう面では遅れてるなあと思うよ。 |
Q: | (笑) |
PM: | ホント冗談じゃなく、マジでそう思うな。 こと考え方の自由さって事に関しては、未だに日本社会ってすこく堅苦しい規則みたいなものにがんじがらめになってるよね。 まあ、それが産業面・生産面に関しては有利な武器になってるんだろうけど。システムに沿ってテキパキと能率よく仕事が進んでいくからさ。 |
Q: | 日本人ほど仕事に関して有能で能率のいい人種は居ないと思いますよ。 |
PM: | (笑) うん。 反面、われわれ英国人は なまじ個人の自由を尊重し過ぎるもんだから、しょっちゅうどこかで誰かがストライキやっていて 何ひとつ正常に機能しないっていう落とし穴もあるしね。 |
Q: | (笑) でしょう? |
PM: | だから、何もここで日本人ばかり責めてる訳じゃないんだ。 だけどある種の事に関しては、特に捕鯨の事とか環境汚染などについての日本の政策は、驚くほど遅れてるよね。ヨーロッパやアメリカに較ペるとさ。 環境問騒なんか今皆が力を合わせて何とかしなきゃ、もうすぐこの地球上に人間が住めなくなってしまうという段階にまで追いこまれてるのに。 とか まだ他にも色々あるんだけどさ、とにかく今の世の中ってすごく興味深い時代に突入してると思うんだ。 まぁ現在起こっている事の多くが60年代の反動から来てるんだろうけど… 何たって今は我々 “60代の申し子達” の世代だからさ。 実はこの間フランスの環境大臣に会ったんだけど <延々とつづく> |